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今年、観光に更なる追い風が吹き始めた

―全国に、観光学を教える大学はどのくらいあるのでしょうか。

 

 まず、「観光」「ホスピタリティ」「ツーリズム」の語を名前に含む学部・学科を置いている大学が43校。学部・学科ではないが、それらの語を含むコース、専攻、分野、領域などを置いている大学が65校。表面上、観光とは無関係のようでいてカリキュラムの中に観光関連の科目がある大学が54校。短期大学まで広げると、観光関連コースを持っている大学が65校あります。

 文部科学省のデータでは、観光系の大学は学部・学科単位で観光を教える43校だけになっていますが、実際は何らかの形で観光を教えている大学がこれだけあります。

 

―学部・学科名はさまざまですが、教育内容についていくつかに

分類することはできますか。

 

 観光庁のデータでは、次の4つに分類されます。

(1)人文科学系、(2)ホスピタリティ系、(3)地域振興系、(4)マネジメント系。

最も数が多いのはホスピタリティ系です。特に新しいところに多い。

また、実際にはこれらを組み合わせて教えている大学が多いです。

 

―どのような背景から、観光系学部・学科が新設されていったのでしょうか。

 

 増えてきたのは、小泉元首相が「観光立国宣言」をした2003年から。観光立国の実現には高等教育機関での人材育成が必要ということで、大学に観光学部の設置を求める声が強まりました。

 ただ、「声」だけでは増えないんですよ。それまでは非常に限られていたし、増やしたくても認められなかったんです。大学には文科省が定める学部の設置基準というのがあって、観光はだめだった。「観光は学問じゃないでしょ?」と。それが、小泉元首相の“鶴の一声”で変わりました。国は初め、47都道府県の国立大学に観光学部を作ろうとしましたが、国立では琉球大・山口大・和歌山大の3か所に留まり、実際は私立大学で増えていきました。

 小泉さんの発言の影響と、大学の設置基準が緩和されたこと、この2つが相まって観光系学部・学科を新設しやすくなったのです。

 

―「観光立国宣言」は有名ですが、規制緩和による後押しもあったのですね。

 

 そうです。また、国からの追い風に加えて、設置のハードルが低いことも要因です。観光学部は医学部などと違って特別な設備がいらないから、設置にお金がかからないのです。最低限、教室が確保できて、教員・学生さえいれば成り立つ。「観光」は高校生にとっても「面白そう」というイメージがありますから、学生は集まりやすいです。皆さんも受験生の時はそうだったかもしれない。

 

―そうでした。

 

 それらの要因から、一気に増えました。ただ、増えた一方で、すでに辞めたところもあります。特に「名前に観光とは載せていないけど、科目だけ設置しています」というところは中身が変わっていたりします。

 

―それでも、この10年間で増えているか減っているかといえば、全体的には増えているんですね。

 

 はい。 全国の大学の半数以上が定員割れしている状況で観光系学部・学科が増えているのは、観光産業の将来性を見込んでのことでしょう。 観光立国宣言後の期待感に加えて、今年、さらに観光に追い風が吹き始めた。何かわかりますか?

 

―東京オリンピックの開催決定ですか?

 

 実はオリンピックは最後の方なんです。

 今年最初の追い風は6月、富士山が世界文化遺産に登録されたこと。もともと有力な観光資源だったから、これはそれほど大きな影響はなかったけど。

 2番目は7月、訪日外国人客数が初めて単月で100万人を超えたこと。中国・韓国からは外交問題で減っていますが、ASEAN諸国からはビザ要件の緩和によって一気に増えました。 8月、9月も過去最高の数値を記録しています。国の計画では2010年までに年間1000万人突破が目標でしたから、3年遅れだけど、今ようやく当初の目標に届きそうです。このままいけばいつか、インバウンドの数がアウトバウンドの数を超えるかもしれない。

 3番目は8月、全日空が客室乗務員を契約社員から正社員採用に改めたこと。これは航空会社で働きたい人にとって、大きなニュースでした。 

 そして最後に9月、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催決定。これによって、少なくともオリンピックの前年までは訪日外客数が伸びることが確実になりました。なぜ前年までかというと、オリンピックになると物価がハネ上がって、オリンピック観戦以外の観光客が敬遠するから。それでもあと6年間は伸びる、これは大きいですよ。

 6、7、8、9月と続けざまに良いニュースがありましたから、タイミング的に観光を学びたいと思う学生はさらに増えるでしょうね。

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