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都市の大学、地方の大学

―都市部にある観光系大学と地方にある観光系大学では、何か違いがありますか? 

 

 地方で特に目立つのは地域振興系の学部を置く大学です。その地域にある大学としての存在価値を問われるわけです。地方の観光系学部・学科では、「観光を軸に、その地域を活性化する人材を育てる」という明確な教育目標が見て取れます。反対に、東京圏の大学はどちらかというと総合的な教え方ですね。

 

―地域振興は観光系学部・学科の役割として期待されていますよね。それぞれの大学で、どんなアプローチの仕方がありますか。

 

 観光系学部・学科の地域振興には、観光学からのアプローチと人文科学・文化人類学からのアプローチの二つがあって、それぞれやり方が違います。

 観光学は、一つの地域を研究して、3、4年経ってある程度形が見えると別の地域へ移ります。 一方文化人類学は、一つの地域に入って数十年単位で研究します。おじいちゃん・おばあちゃんの代からその孫の代まで、徹底的に時間をかけて研究していく。

 地元側からすると「良い時も悪い時も一緒にいてよ」と思うでしょうが、観光系の短期のアプローチをする場合は最初にちゃんと「それほど長くはお付き合いできませんよ、学生にさせられる範囲でお手伝いしますよ」と伝えているようです。その一言があれば、地元も過度な期待を抱かない。期待を持たせておいて、やりっぱなしで去られるのは一番困りますからね。

 地方の観光系学部・学科には、どちらかと言うと文化人類学的なアプローチで研究している教授が多いですね。地域的課題に対して長期目線で向き合う文化人類学的アプローチの方が、地域もその大学の存在価値を認め、協力するからです。

その地域によって必要性が違いますから、どちらが良いとかはありません。

 

―学生がどれだけ力になれるかもありますよね。

 

 学生の力は大きいと思いますよ。お金を出せるわけじゃないけど、若い方のモノの見方や価値観は、大人と全然違うわけじゃないですか。これからの観光ビジネスのお客様は皆さんより後の世代の方なわけで、今のおじさんおばさんと若い人の価値観とでは、どちらが近いかといったら皆さんの価値観。そちらにベースを移していかないと商売にならない。それは彼らには絶対に持てない視点なんです。企業も地域も、その斬新な発想を受け入れる寛容性が持たなくてはなりませんけれどね。

 

―そう言っていただけると、頑張らなきゃと思いますね(汗)。

 

 30年後には皆さんの考え方だって古くなりますよ(笑)でもそれでいいんです。それが成長ってことです。次の世代にバトンを渡していくんです。

 

―いろんな大学を見てこられた中で、内田さんが思う理想の観光系学部・学科はどんなところですか。

 

 第一に、近隣に観光資源が複数あり、フィールドワークをすぐできる大学です。観光現場にすぐ行ける環境にあり、それをきちんと理論立て教えてくれる先生がいること。要するに、観光学的なモノの見方を身に着けられるところです。採用する企業側もそういうところを重視します。経済学部生には経済学的なモノの見方があるように、観光系学部・学科生ならではの視点を欲します。観光地をたくさん知っているだけでは、十分ではないのです。

 ある企業の人は、観光学部生を採るのであれば「『きちんと観光学を勉強した人』が欲しい」と言っていました。「きちんと」の意味は、「国家試験を通りました」とかではなくて、「観光学的な視点を持っています」ということです。

観光学を専攻する学生へ

―最後に、観光学を専攻する大学生にアドバイスやメッセージをお願いします。 

 

 観光学を「きちんと」勉強した学生は、どの業界でも通用する人材です。観光を学んでも観光産業に行く人が20%以下である、という数字を観光庁が出していますが、これをむしろ誇りにしてください。なぜそれだけしか行かないのか、それは裏を返せばみんなが欲しがる人材だからです。

 そして、決して頭でっかちにならないで。まず現場、次に理論。この順序を踏んでほしい。現場だけ見ていてもダメだし、理論だけ学んでもダメです。頭でっかちの人って使えないんですよ、特に旅行業界ではね。まず動けと。フットワークの軽さが大事です。

 

―本日はありがとうございました。

取材日 2013年10月23日

聞き手 三堀、諸角

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