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旅行業界と大学

―旅行業界は、「会社で必要な知識は会社に入ってから教えます」というスタンスなのでしょうか。例えば観光系学部で実務を勉強して頭でっかちになって来るよりも、人間性を重視しているのですか。

 

 総合旅行業務の資格を大学時代に取る学生はいるけど、資格を持っていること自体より、そういうことに関心を持って勉強している姿勢が評価されるのだと思います。採用段階においては、知識よりもコミュニケーション力、チームワーク、問題解決能力などの方が重視されますね。

 

―旅行業界として、大学と連携したいことはありますか。

 

 寄付講座は産学連携のあり方の一つです。日本観光振興協会の産学連携事業の一つに大学での寄附講座がありますが、JATAもそれに参加していて、私も講師を務めました。早稲田大、首都大、一ツ橋大に、何百万か支払って講座を開いています。

 

―「寄付講座」というのは、大学から依頼されるのではなく、お金を払って講義をさせてもらうんですね。

 

 そうです。学生に、旅行業界はもちろん、観光業界全体に興味を持ってもらうためです。

 また、インターンシップや合同就職説明会などの取り組みについて、今後は大学のキャリアセンターと直接パイプを持って開催した方が効果的だと考えています。観光系学部がある大学はもちろん、それ以外の大学とも直接のパイプを持ちたい。

 

―以前、旅行業のビジネスモデルを大学と共同研究したいという話をされていましたが。

 

 今は正直、大学はそこまでのレベルに達していないと思う。業界側もそうだけど。

 ただ、本当に収益性のある旅行会社のビジネスモデルがどうやったら構築できるか、私自身もこれから追求したいテーマです。ホテル業界はアメリカのコーネル大学を中心にビジネスモデルが研究されていますが、旅行業界のそれは今までありません。まして中小旅行会社のモデルなんて更にない。共同研究に理解を示してくれる大学は2、3はあると思っています。

 

―越智さんは「観光教育に関する学部・学長等会議」など観光庁の会議にも出席されていますが、どういうことを主張されているのですか。

 

 旅行業にとって人材育成は大事だよとか、中小旅行会社はブラック企業ばかりじゃないよとか、そういう会社があれば潰れたほうがいいとか(笑) それは冗談で、観光は経済効果だけでなく日本のブランド力を高めるポテンシャルを持っていること、平和を作りだす力があることなど、社会的に重要な役割を果たすことを訴えています。ただの旅行の斡旋屋じゃないよ。

 

―まだまだ成し遂げていないことはありますか?

 

 いっぱいあります。今のJATAでの仕事もそう。つい先日は国連世界観光機関(UNWTO)と提携しました。今後アジアでさらに海外旅行者数が増える中で、日本の旅行会社がリーダーシップをとってほしいと期待されているし、それに応えなければならないと思っています。すごくやりがいがある。

旅行業界から、学生に伝えたいこと

―最後に、観光を学ぶ学生にメッセージをお願いします。

 

 旅行業界・観光業界を目指す上では、旅行が好きであること、人の世話が好きということも大事ですが、第一にこの産業に対して志を高く持ってもらいたい。この産業が持つ潜在力を感じてもらいたい。

 

―旅行業界は、これからが面白い産業になりますか?

 

 面白くなりますよ。今までもその時代ごとに異なる役割を果たしてきましたが、今後ますます重要になってくると思います。

 

―でも大学では未来のない話を色々と聞かされますけど。少子高齢化で需要は右肩下がりとか、ネットが主流になって店頭販売は衰退するとか、直販が増えているからモノを持たない旅行業の存在価値が問われているとか…。

 

 それは国内の話でしょ。グローバルで見たら旅行需要はこれからもっと伸びる。世界70億人の人口のうち、今十億人が旅行をしている。これからさらに10年くらい経ったら、アジアやアフリカの人たちが十億人くらい飛行機に乗って旅行する時代が来ちゃうんだから。今までは裸足の人、スニーカーの人、車の人、飛行機の人って分かれていたけど、これから裸足だった人がスニーカーを履いて、車に乗って、飛行機に乗る時代が来ちゃうんだから。すごいことが起きるよ。

 

―そういう海外の需要を、日本の旅行会社が取れるんでしょうか?

 

 だから取りに行くの!アフリカに行って、「裸足の原住民に靴なんか売れ

ない」と考える営業マンになるか、「この人たちに靴を履かせることができれ

ば、一万足売れる」と考えられる営業マンになるか。

 物はポジティブに考えなさい。同じ現象を、どう視点を変えて捉えるか。

統計データを見たときに、それに対してどうプラスの発想で取り組んでいける

かがビジネスです。「これだからダメだ」と思うか、「こうすればできる」と思うか。

私は常にそういう風に物事を考えてきたし、仕事で辛いことがあっても「こうし

たら乗り越えられる」思って生きてきました。

 

―そういう発想ができる学生に来てほしいですか?

 

 そうですね。そういう風に考えられなかったら、旅行会社の仕事は務まらないと思う。辛いことも、頭下げることもたくさんある。それでも、最後の最後にお客さんから「ありがとう」と言ってもらえる瞬間、イベントを成し遂げた瞬間って、ものすごい達成感があるんだよ。それって毎日へらへらしていて味わえるものじゃなくて、ちゃんとストーリーがあって、大変なことばかりで、でも最後にボーンと達成するからこそ味わえるものなの。このドラマ感は、たまらないね。

 

―ちなみに今までで一番どん底に突き落とされた経験は何ですか?

 

 毎日どん底だらけだったよ(笑)。フランスワールドカップの時に有名企業の役員クラスの人を500人くらい連れて行ったけど、500人分チケットが取れてなかった、なんてこともあった。そんなことが日常茶飯事でした。いろんなことを乗り越えてきたの。

 旅行業界の大変さは今も昔と変わらないけど、それを「大変だけど、こういう面白さがある」と思えるかどうか。毎日楽してお金もらえる会社なんて、どの業界にも一つもない。もしあったとしても、そんな仕事はつまらないと思う。大変だからこそ楽しくて、やり遂げたときの喜びが大きくて、だからお金がもらえるんじゃないの。そう思わないと。社会人になる人たち、そう思って頑張ってください。

 

―いい締めになりましたね。本日はありがとうございました。

 

取材日 2013年10月16日

聞き手 藤野、三堀、遠藤

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