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観光立国、なぜ人材育成が重要?

-「観光人材育成」に関連する観光庁の取組について、

これまでの経緯をお聞かせください。

 

 観光庁が発足して5年になりますが、この間、観光庁が来取り組んできた人材育成事業は、観光系の大学や学部に在籍している大学生に向けたものと、既に観光産業で働いている社会人のスキルアップを目的としたものと、大きく分けて2つあります。

 まず、大学生向けの事業についてですが、全国で観光系の大学や学部が急増していたこともあり、欧米のホスピタリティマネジメント学部のように企業実務に直結した実学こそ観光系の大学や学部で教えるべきとの問題意識から、人文学的な「観光学」ではなく、観光業界の人材ニーズを踏まえたカリキュラムモデルを策定しました。さらに、2年かけて、そのカリキュラムモデルを実際に教える際のケース教材※を産学共同で作成しました。

 

 

 現在は、日本観光振興協会が産学官連携事業として実施している人材育成事業に官の立場から協力しています。具体的には、同協会が行っている大学への寄付講座に講師として出向き、学生に観光行政の全体像をできるだけかみ砕いて説明し、観光への興味・関心を高めるよう努めています。

 

―二つ目の、社会人のスキルアップとは。

 

 我々が特に問題意識を持っているのは宿泊業界、中でも旅館経営者の方々についてです。旅館業は、家業として何代にもわたって営まれているところも多く、ホテル業と違って組織マネジメントやマーケティングに対する意識が弱い業界なんですね。

 地方を中心に経営の厳しい旅館が多くありますが、具体的にどう対処したらよいか分からないところがほとんどです。そこで観光庁では、地方の大学と連携して、旅館の若手経営者を対象に、旅館業経営に対する意識改革を促すことを目的にしたプログラムを行っています。「一定期間、座学を受けて終わり」ではなく、研修期間を3つに分けて、1ターム終わったら自分の旅館に帰って研修成果を実行に移し、また次のタームで新たな課題を持ち込んで研修を受けるという形にし、内容もディスカッションや発表の時間を多く設けて、同じ境遇にある旅館経営者同士が他の宿の取組みから気づきを得たり、問題意識を共有して士気を高め合ってもらうようにしています。

 

※観光庁公式サイトに掲載(http://www.mlit.go.jp/kankocho/case.html

 

―根本的な質問ですが、なぜ、観光立国に向けて人材育成が重要なのでしょうか。

 

 観光産業というのは、製造業のように形あるものを提供するわけではなく、目に見えない体験や非日常的な空間や時間を商品として提供する産業です。それは、「おもてなし」として、全て人の手を介して提供されるものであり、それゆえ、人材が果たす役割は他産業に比して大きいのです。

 例えば、どんなに料理が美味しくて雰囲気のいいレストランでも、そこの店員さんの印象が悪ければ全て台無しですよね。日本には素晴らしい観光資源がたくさんありますが、観光立国に向けて最後にカギとなるのは人材なのです。

観光産業における”優秀な人材”の確保・育成に向けて

―観光庁では、「観光産業における優秀な人材の確保・育成」を提言※に盛り込まれています。背景には、どのような問題意識があったのでしょうか。

 

 先ほど申し上げたことに関連しますが、観光立国として日本が成功するか否かは、最終的には観光産業に優秀な人材がいるかどうかということになります。しかしながら、現実は、必ずしもそうはなっていません。そこに対する危機感。

 そして、優秀な人材を集めるためには、日本の産業界の中での観光産業の存在感を高めていく必要があります。日本は昔から製造業が産業の中心にあり、観光産業の位置づけは残念ながらそれ程高くありません。そこに「優秀な人材」を集めるためには、観光産業界の存在感をもっと高めていかなければいけません。そんな問題意識はありました。

 

※「世界最高・最先端の観光産業を目指して~観光産業政策検討会提言~」(https://www.mlit.go.jp/kankocho/news06_000173.html

 

 

―旅行会社は常に就職人気ランキングの上位に入っていますが、産業全体としては学生があまり集まらないのですか。

 

 そのようですね、人気があるのは、一部の大手企業だけでしょう。旅行会社は1万社、ホテルは1万軒、旅館は4万軒ありますが、優秀な人材を集めるのに苦労しているところが圧倒的に多いと聞いています。

 

 

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