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―観光産業における“優秀な人材”とは。

どういう能力を持つ人が“優秀”なんでしょうか?

 

 これは難しい質問ですね。私も先ほどから「優秀な人材」と口にしていますが、では、どういう人が優秀かというと、非常に難しい。強いて言うと、何かの能力を持っているというよりは、新しい発想で観光の可能性を広げていくことができる人でしょうか。例えば、インターネットの普及で、従来にはなかった新しい観光関連のサービスがあちこちに生まれていますよね。「旅行業とはこういうもの」、「宿泊業とはこういうもの」と型にはめるのではなく、柔軟な発想で新しい市場を切り開いていくことが観光には必要なことと思います。

―観光庁では、観光業界へのインターンシップの受け入れも推進しています。観光産業に積極的にインターンを受け入れたいと思う背景は何でしょう。インターンに来てもらうことで、学生に知ってほしいことは。

 

 先ほどの話にもありましたが、観光業界の中でも就職先として人気があるのは一部の大手企業だけです。インターンを通じて、観光業界にもっと目を向けてもらいたいという思いが業界にはあります。実際に仕事の現場を見て、経験してもらわないとわからないことって、どの業界でもありますよね。学生の皆さんには、インターンという形で業界の仕事を直接見てもらいたいわけです。「食わず嫌いにならないでほしい」ということですね。

 

―「食わず嫌い」…休みが取れない、給与がよくないといったマイナスイメージの根強い業界ですが、学生のイメージとは違うこともあるのですか?

 

  「休みが取れない、給与がよくない」という側面はあるかもしれません。でも観光産業って、人に喜んでもらうことにやりがいを見出せる人には間違いなく魅力的な職場だと思います。その人が未だ知らない世界、「空間」や「時間」や「体験」を提供するのが観光産業です。インターンを通じて、そんなところに気付いてもらえると、休みや給与のマイナスイメージはそう大した問題ではないように思えるかもしれない、ということです。

 

―企業側としては、インターンはある意味社会貢献でやっていることで、必ずしも受け入れに積極的とは言えないようです。

 

 観光産業に限らず、そこは日本の企業全体に言えることかもしれません。アメリカでは企業が学生に即戦力を求めるので、インターンを重視する傾向にありますが・・・

 残念ながら、観光業界は、待っていればいくらでも学生が応募してくるという業界ではないので、「自分たちの業界を若い人たちに直接知ってもらおう」という意識をもってインターン受け入れを前向きに考えてほしいと思っています。

 

―「観光産業における優秀な人材の確保・育成」に向けて、今後さらに議論を深めるべきことはありますか。

 

 本来、優秀な人材の確保と育成という観点からは、産業界と大学はwin-win関係のはずです。それが、なぜかミスマッチが生じてしまっている。その一番の原因は、産業界と大学側のコミュニケーション不足でしょうね。だから、「議論を深めるべきこと」というよりは、まず「議論を深める場を作る」べきだと思います。

 

―あんまり観光産業の方々って観光系学部に関心ないみたいですが…。

 

 そこは、大学側から関心をもってもらうよう働きかけるしかないですね。観光系学部の人材については、「大学で何を教えているかよく知らないから」と大学側の食わず嫌いになっている恐れもあります。コミュニケーションをとる場を大学のほうから積極的に作っていくことが大事ですね。

観光系学部と観光業界の接続性について

―観光系学生が観光業界にあまり進まない状況について、どう思われますか?

 

 よく言われる話ですね。皆さんの就職先は観光業界ですか?(笑)

 私は、「観光系学部の学生だから観光業界へ行くのが当然」と考える必要はないと思っています。また、「観光関係の仕事=観光業界」と考えるのもどうかと思います。例えば、広告代理店に就職して地域おこしをしたり、地銀に入って地域産業を支えることも観光に関連した仕事と言えます。「観光業界」というものをもっと広く捉えればいいと思います。

 

―関連して、観光庁では「観光系学部の教育内容と企業の人材ニーズのミスマッチ」を以前から指摘されていました。今のお考えはいかがでしょうか。

 

 ミスマッチが生じる原因は、大学側の教育内容よりも企業の採用の考え方によるところが大きいと思います。日本の企業が採用時に重視するのは、大学で何を専攻したかよりも組織人として使えるかどうかという点です。協調性、地頭の良さ、潜在能力、熱意…欧米とは異なり、即戦力は求められていません。仕事に必要なスキルは会社に入ってから、研修を通じて身につけてもらうという考え方です。

 ですから、観光系学部だけが悲観することはないのです。観光業界に就職することが観光系学部の存在意義のように捉えてしまうと、そこから不幸が始まってしまう。だから、大学側も、変に就職を意識した講義やカリキュラム編成をするのではなく、それぞれの大学が考える教育・研究をしっかり行えばいいと思います。

 

―観光業界へ人を送ることが観光系学部の存在意義でないとすれば、ではそれ以外に、観光庁から観光系学部に期待する役割はありますか?

 

 まずは、観光がこれからの日本にとっていかに重要かということを、観光系大学が旗振り役となって対外的に発信してほしいですね。政府が観光分野に本腰を入れたのはごく最近の話で、他国に比べれば周回遅れの状況。この遅れを取り戻すため、政府は政府でしっかり観光行政に取り組んでいきますし、産業界は産業界で頑張らなければならないですが、「学」の世界では観光系学部が中心となって、学問的見地から観光の重要性をもっと主張してほしいと思います。

 例えば、観光は「究極の安全保障政策」と言われています。現在、我が国と中国・韓国との関係が冷え込む中、解決の糸口は民間レベルの交流促進にあると言っても過言ではありません。「観光を通じた人的交流促進が、安全保障上どれだけ効果を有するか」という点を学問的に分析し、観光の力を世に示すということも学問の世界ならば可能だと思います。

 もう一つ、小・中・高校での観光教育も重要ですので、大学にはその先導役を担ってほしいと思います。観光教育に関心のある小学校の先生は、総合や生活、理科や社会の時間に観光と絡ませて教えています。「自分の地域にはどれくらい人が来ているのかな」、「それによって私たちの暮らしにはどういう良いことがあるのかな」というように。そういう観光教育に熱心な先生たちと連携して、小さい頃からの観光教育を更に拡大していくことも、大学に期待したい役割です。

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