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観光系学生の強みとは?

―観光系学生はどのように自分の進路を考えればよいのでしょうか。特に他業界の選考を受ける場合、説明の仕方に困る就活生が多いようですが。

 

 逆に聞きますが、法学部や経済学部の学生はどうです?学んでいることはそんなに明確ですか?誰もが、確実な知識と技能を身につけて、経済学部なら銀行、証券会社に進むなどと決まった道がありますか?

 

―どの業界にも通用するという感じですかね。

 観光系学生も同じだと思います。本来ならどの業界でも通用する。観光産業に人材を送るためだけに観光教育があるわけではありません。もちろん旅行・ホテルといったオーソドックスな分野へ行くのも良いですが、観光が持つ力を他分野で応用することはできるはずです。これだけ国を挙げて観光を成長産業にしようとしていますから、旅行・ホテルだけでなく関連する様々な産業界でも徐々にその重要性が認識されつつあると思います。そういう追い風がある中で、他業界に進んで観光を知っていることはむしろ大きな強みだと思う。他の社員が誰も詳しくない観光分野の知識や経験を持っているわけだから。

 そして極論を言えば、どの学部を出てもダメな人はダメだし、出来る人は出来る。経済学部の人が銀行に入ったとしても必ず有能であるとは限らないでしょう。

 

―では、観光庁が出している、観光系学生の観光業界への就職率12%という数字は、問題だとは思わないですか?

 

 数字だけで判断してはいけないでしょう。観光業界に行きたくても行けないのであれば考えなければなりませんが、結果的に選ばないことも多いと思います。極端な話、学生が納得して進路を選択しているなら5%でもいいと思う(笑)。数字ではなくて、内容をしっかりと見なくてはいけない。

 かつてある国(地域)で、観光人材を育成しようと、徹底的に教育したら優秀な学生が育ったものの、多くが観光関連業に就職せず、他分野に行ってしまったというエピソードを耳にしました。コーネル大学ホテル経営学部の卒業生達は、ホテルのサービスだけでなく、ホテルへの投資や資産運用も学び、それらの分野で活躍することも多いようです。また、大学側だけに問題を見だすのではなく、学生が希望したくなるような観光産業界の魅力向上や社会的評価を高めることも重要です。

 

―観光学から他産業に活かせる力とは、例えば何でしょうか。

 

 親しい観光学教員達で話すのですが、「いつまでたっても『観光学部って何するの、学ぶ必要あるの』と社会から言われ続けることに大きな問題がある。観光学ではコレを学ぶ、という軸が必要だ」と。

 その時辿り着いた結論のひとつは、「観光学は『楽しむこと』を科学する学問である」、ということでした。観光を学ぶことで磨かれるのは、「人を楽しませる・感動させる・喜ばせる」方法論です。様々な業界の企業がディズニーリゾートやリッツカールトンのホスピタリティを必死で学んでいるように、ホスピタリティの方法論を知る人は幅広い分野で活躍できるポテンシャルを持っています。また、「『楽しみ』って何だろう」、そういう学問的知見をしっかりと構築していくことは、ひとつの答えでしょう。また、観光系学生が学内外で経験し、学んでいることはかなり実践的ですから、他分野に比べて、実社会で生かせることが多いという強みもあるはずです。

 

―観光系学生には、ホスピタリティの方法論を、観光で成功した地域や企業の事例から学んで来てほしいと?

 

 そういうことです。ただそこで難しいのが、たくさん存在する事例をどう集約していくか。

 先に述べた通り、観光産業界出身の教員は個別の現場体験を豊富に語れますが、それを論文で、論理的に書くということをあまりしません。彼らも色々な観光学関連の本を出していますが、内容的にどうかと思うものも多くあります。経験談や事例紹介、そして持論から導かれる自己主張が混ざり合っている。観光学の体系や理論的枠組みがはっきりしないのです。

 私は1980年代後半に、(当時の立教大学)前田教授や岡本教授が書いた「観光概論」(学文社)を教科書に学びました。今見ても、しっかりと構成されていて良い本だと思います。やはり、しっかりとした理論体系に基いて学び、そこから各分野、事例へ応用していくべきだと思います。そのためには、研究者もしっかりと研究をし、理論的な枠組みを構築していくべきです。そういう理論は、応用が利きますから、学生達にもぜひ獲得してもらいたいですね。

観光系学部・学科の講義やゼミについて

―観光系学生の中には、観光系学部・学科での講義について、「何を学ばせたいのか分からない」「教授の企業経験談中心で、理論を学べなかった」というような不満をもつ学生がいるようです。

 

 それは観光系学部・学科の講義だけの話ではないはず。何を「面白い」と感じるかは学生それぞれです。不満を持っていると言いましたが、別の学生からは「観光学部の講義って本当に面白いんです!」という声を聞きましたよ。1・2年生のうちは、初めて観光学に触れて面白いと思う人がいるかもしれないし、4年生の最後まで面白いと思えない人もいるかもしれない。単に楽勝科目を取りたいという学生もいる。私も学生時代を振り返ってみると、結構適当に勉強していたこともありましたね (笑) 

 

―以前、「講義は必ず教員の手の中にあるべきだと」ということを書かれていて、確かにそうだなと。15回ある講義のうちほとんどの回がゲストスピーカーだったりすると、一体何の理論を学んでほしいのかと思うことがあります。

 

 ゲストスピーカーを招くケースというのは、「この分野は自分より現場の人が語る方が良いな」と、教員が判断した時などです。ただ、ゲストスピーカーは「現場のプロ」であっても「教えるプロ」ではありませんから、必ずしも教員の希望通りに話しをしてくれません。もちろん、事前に擦り合わせも出来ますが、ゲストスピーカーの講義を聞いた後で、教員がポイントを引き出し、かみ砕いて解説する必要がある。そうすれば、学生も何を学びとってほしかったのか理解できると思います。繰り返しますが、学ぶべきは事例ではなくて、一般性のある理論なのです。

 

―ゼミ学習を重視していらっしゃいますが、なぜでしょうか。

 

 観光学を自分のものとして獲得するには、主体的に取り組み、アウトプットしていくことが重要だからです。

 少し話はそれますが、講義ってなぜあると思いますか?答えは「知識習得にもっとも合理的なスタイルだから」。大教室で、教授が前で話して、大勢の学生が聴くスタイル。理屈では、聞いていれば知識は吸収できるはずです。ただ現実的に、それだけでは本当の意味では呑み込めない。自ら動いて調べたり、感じたりすることで初めて自分のものとして消化できるのです。

 特に観光学の場合は、実際の現場を見に行くことが重要です。例えば観光と環境問題の関係について教えるとします。「観光にとって環境問題がいかに大事か」ということは、おそらく簡単なことであれば5分で説明できる。でもそれだけで環境問題の本質を理解できるはずはないですよね。だから、実際に学生と歩いて環境破壊の現場に立ち会ってみようということになる。そして、そこで問題意識を持ち、自ら考えて、自分なりの解を導いていく、それができる場所がゼミです。

 ゼミは講義と違って教員が自由に、アクティブに内容を組めますから、いろいろな学習要素を取り入れることができます。(そのせいで良くも悪くも、教員によって質の差が大きく、教員が一方的に話をするだけのゼミもあったりするのですが。)意見交換をする、調べてきたことを発表する。少人数だからこそ、人間関係を築きながら学生達が主体的に学ぶ場をつくり出せるのです。

 教員側も、観光現場の問題を分かりやすく体験的に学び、思考力も鍛えていけるように、観光関連講義の教授法を研究・開発していくべきだと思います。
 

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